夜の机で広告のレポートを前に「このお金、ちゃんと新しいお客さんになっているのかな」と考え込むEC担当者

顧客獲得コスト(CAC)の計算方法|新規1人にいくらかけたかを数字で見る

「広告費、先月より増やしたんですけど……これって、うまくいってるんでしょうか?」——そう聞かれて、はっきり答えられる人は多くありません。売上は増えた。でも広告費も増えた。じゃあ、この投資は得だったのか、損だったのか。数字がいくつも並んでいるのに、いちばん知りたい「新しいお客さん1人を連れてくるのに、結局いくらかかったの?」という問いには、意外と答えられない。そんなモヤモヤ、心当たりはないでしょうか。

広告を増やすかどうかで手が止まるのは、根性が足りないからでも、勘が鈍いからでもありません。「1人あたりの獲得コスト」という共通のものさしを持っていないから、増やす判断も、止める判断も、いつも賭けになってしまうのです。今日はその、いちばん基本のものさし——CAC(顧客獲得コスト)を、管理画面の数字だけで出せるように、そして「この数字は高いのか安いのか」を自分で言い切れるようになるところまで、一緒に組み立てていきましょう。

結論:CAC(顧客獲得コスト=新しいお客さん1人を得るのにかかった費用)は、「ある期間にかけた集客の費用 ÷ その期間に新しく獲得したお客さんの数」で出せます。まずはこの1本の割り算で十分です。そして出したCACは、単体では「高い・安い」を判断できません。そのお客さんが将来もたらす利益(LTV)と並べてはじめて、「この獲得コストは見合っている」と言い切れます。目安は、LTV(1人のお客さんが生涯で落とす利益)がCACの3倍あれば健全とされます。CACは「広告を増やす/止める」の勘を、数字に変えてくれる最初のものさしです。

このページを動画で見る

文章だけだとイメージしにくい方へ。このページの内容を、動画でやさしく解説しました。読んでもピンとこなかったところは、ぜひ動画で確かめてみてください。

このページの内容を動画で解説しています
このページの内容を音声で聴く

いま何が起きているか|「売上は増えた」の裏で起きていること

まず、言葉を1つだけそろえさせてください。CAC(Customer Acquisition Cost=顧客獲得コスト)とは、新しいお客さんを1人獲得するのに、平均していくらかかったかを表す数字です。むずかしいものではありません。「新規のお客さん1人あたりの、集客のお値段」——それだけです。

なぜ、この数字が大事なのでしょうか。EC運営でよく起きるのが、こんな状況です。広告費を増やす → 注文が増える → 売上のグラフが右肩上がりになる → 「うまくいっている気がする」。ところが、月末に利益を見ると、思ったほど残っていない。売上は伸びたのに、手元のお金は増えていない。これは、増えた売上の裏で、1人を連れてくるコストがじわじわ上がっていたのに、それに気づけていなかったから起きます。

ここで、よく似た言葉との違いも整理しておきましょう。広告の世界ではCPA(Cost Per Acquisition=1件の成果にかかった費用)という言葉をよく使います。CPAは「広告経由で1件の申込や購入を取るのにかかった広告費」を指すことが多く、広告だけの効率を見る数字です。一方でCACは、広告費だけでなく、集客にかけた費用を広めに含めて、新規のお客さん1人あたりを見ます。ざっくり言えば、CPAは広告の足元、CACはビジネス全体の足元を見るものさし、と考えると混乱しません(この記事ではまず、広告費を中心にしたシンプルなCACから始めます)。CPAをどう下げるかはCPA・CPOを下げる広告改善の手順で詳しく扱っています。

大事なのは、CACを「出すこと」そのものより、出したCACを見て、増やす・止める・やり方を変えるを判断できるようになることです。そのために、まずは計算のやり方をおさえましょう。

CACの計算方法|割り算1本から始める

集客にかけた費用を新規のお客さんの人数で割ると、1人あたりの獲得コスト(CAC)が出ることを示した図
集客にかけた費用を、新しく獲得したお客さんの人数で割る。それがCAC(1人あたりの獲得コスト)。

特別なツールはいりません。管理画面の数字と電卓、または表計算ソフトがあれば十分です。数字はすべて架空の例なので、ご自身の店の数字に置き換えて読んでください。

ステップ①:期間を決める

まず、いつからいつまでを見るかを決めます。まずは直近1か月が扱いやすいです。短すぎると偶然に振り回され、長すぎると今の実力から離れるので、月ごとに見て、数か月の並びで眺めるのがおすすめです。

ステップ②:その期間の「集客にかけた費用」を合計する

次に、その月に集客のためにかけたお金を足します。いちばんシンプルに始めるなら、広告費の合計でかまいません。慣れてきたら、集客のために使った費用(たとえば外注したクリエイティブ費、集客ツールの利用料など)も足すと、より実態に近づきます。各媒体の広告費は、Google 広告 ヘルプなどの管理画面から期間を指定して確認できます。

ステップ③:その期間の「新しく獲得したお客さんの数」を数える

ここが少しだけ注意どころです。数えるのは、その月に初めて買ってくれた「新規顧客」の人数です。すでに何度も買っているリピーターの注文は、ここには含めません(CACは「新しく獲得した」コストなので)。新規とリピートの分け方は、Google アナリティクス ヘルプの新規/リピートの見方や、カート・モールの顧客レポートで確認できます。

ステップ④:割り算する

あとは割るだけです。

CAC = 集客にかけた費用の合計 ÷ 新しく獲得したお客さんの数

例で見てみましょう。ある月に、広告費を30万円使い、その月に初めて買ってくれたお客さんが100人いたとします。すると——

この店は、新しいお客さん1人を連れてくるのに、平均3,000円かけている、と分かりました。まずはこの1つの数字を、毎月出せるようになることがゴールです。

集客費用(例)新規のお客さん(例)CAC(例)
4月30万円100人3,000円
5月40万円120人約3,300円
6月50万円130人約3,850円

こうして並べると、広告費を増やすほど、1人あたりの獲得コストがじわじわ上がっているのが見えます。売上(新規の人数)は増えていても、コスト効率は落ちている。この「効率の変化」は、売上のグラフを見ているだけでは気づけません。CACを月ごとに出して並べる——たったこれだけで、判断の景色が変わります。

そのCACは高い?安い?|LTVと並べて初めて分かる

獲得コスト(CAC)と、そのお客さんが生涯にもたらす利益(LTV)を天秤にかけて、見合っているかを判断する図
CACは単体では判断できない。お客さんが生涯もたらす利益(LTV)と並べて、初めて「見合う」が分かる。

CACを出せたら、次の疑問はこうです。「この3,000円って、高いの?安いの?

じつは、CACだけを見ても、この問いには答えられません。1人3,000円が安いかどうかは、そのお客さんが、これからどれだけ利益をもたらしてくれるかによって変わるからです。1回きりで1,000円しか使わないお客さんなら、3,000円かけて獲得したら大赤字。でも、何度もリピートして生涯で2万円の利益を残してくれるなら、3,000円は安い投資です。

そこで登場するのが、LTV(Life Time Value=1人のお客さんが、取引を続けるあいだにもたらしてくれる利益の合計)という数字です。CACとLTVを並べると、獲得コストが見合っているかが、はじめて言えるようになります。

判断のものさし:LTV ÷ CAC

一般に、LTVがCACの3倍(LTV:CAC=3:1)あれば健全とされる目安がよく使われます。たとえば——

ここで大切なのは、LTVは売上ではなく「利益」で見ることです。売上の中には、仕入れなどの原価や送料が含まれています。獲得コストと比べるべきは、そこから原価を引いた粗利(売上から仕入れなどの原価を引いた儲け)ベースのLTVです。売上のLTVでCACと比べると、見かけ上は健全に見えて、実は赤字、ということが起こります。LTVの出し方はLTVの計算方法と伸ばし方の基本で、CACとの兼ね合いで広告投資の上限を決める考え方はLTV:CACで決める広告投資の上限設計で、それぞれ詳しく扱っています。

もう1つ、忘れてはいけないのが回収までの時間です。LTVがCACの3倍あっても、その利益が2年かけて少しずつ入ってくるなら、その間の広告費は先に出ていきます。売上はあるのに手元のお金が足りなくなる——いわゆる資金繰りの苦しさは、この「先に払って、あとで回収する」ズレから生まれます。CACとLTVの比率だけでなく、「何か月で獲得コストを回収できるか」もあわせて見ておくと、安心して投資を増やせます。

具体例|「増やすべきだった」広告を止めていた話

架空のコスメ雑貨店で考えてみましょう。ある担当者は、売上を見て「広告費のわりに売上の伸びが鈍い」と感じ、いちばんお金をかけていた広告を縮小しようとしていました。パッと見のROAS(広告費に対して何倍の売上が返ってきたかを見る数字)が、他の広告より低かったからです。

そこで、いったんCACとLTVをきちんと出してみました。すると意外なことが見えてきます。その広告経由の新規顧客は、CACこそ4,000円とやや高めでしたが、リピート率が非常に高く、粗利ベースのLTVは1万6,000円。比率にすると4:1で、むしろ店の中でいちばん「良いお客さん」を連れてくる広告だったのです。一方、担当者が「効率がいい」と思っていた別の広告は、CACは安いものの、一度きりで離れてしまうお客さんが多く、LTVは5,000円。比率は約1.3:1しかありませんでした。

もし目先のROASだけで判断して、良いほうの広告を止めていたら、将来いちばん利益を残してくれるお客さんの入口を、自分で閉じてしまうところでした。逆に、効率がいいと思っていた広告こそ、見せ方や商品ページを見直して、2回目につなげる工夫が必要だと分かりました。

この話のポイントは、「一度きりの効率(ROAS)」と「長い目での見合い(LTV:CAC)」は、別の景色を見せるということです。CACを出し、LTVと並べたからこそ、止めるべきでない広告と、テコ入れすべき広告が、はっきり見分けられました。感覚や目先の数字だけでは、逆の判断をしていたかもしれません。

あなたへの影響

明日やること

  1. 期間を1か月に決める(まずは直近の1か月から)。
  2. その月の集客にかけた費用を合計する(最初は広告費だけでOK)。
  3. その月に初めて買ってくれた新規のお客さんの人数を数える(リピーターは含めない)。
  4. 費用 ÷ 人数で、その月のCACを出す。
  5. 同じやり方で過去2〜3か月分も出し、CACが上がっているか下がっているかを並べて眺める
  6. わかる範囲で粗利ベースのLTVを出し、LTV ÷ CACが3倍あるかをチェックする。
  7. 比率が低い集客は「止める」の前に、2回目につなげる工夫(同梱・フォロー)でLTVを上げられないか考える。

顧客獲得コスト(CAC) チェックリスト

つまずきやすい落とし穴

関連記事・無料ツール

あなたのお店では、新しいお客さん1人にいくらかけていて、その人はいくらの利益を残してくれていますか。無料診断では、いまのCACとLTVのバランスをざっくり見立て、「もっと投資してよい入口」と「テコ入れが必要な入口」を1つずつお伝えします。
数字の裏づけを得て、安心して次の一手に踏み出そうと前を向くEC担当者

広告を増やすかどうかで手が止まるのは、あなたが慎重だからです。その慎重さは、CACという1本のものさしを持った瞬間、根拠のある大胆さに変わります。費用を人数で割るだけ。まずはそこから始めて、LTVと並べてみる。「この投資は、ちゃんと利益につながっている」と、自分の言葉で言えるようになったとき、広告はこわいものではなく、伸びしろを取りにいく道具になります。今日の管理画面を開いて、先月のCACを、まず1つ出してみてください。

参考(公式・一次情報)