
在庫回転率と交叉比率で在庫効率を診断|眠る在庫をお金に変える
決算前や棚卸しのとき、倉庫の棚を眺めて「この商品、いつからここに置きっぱなしだっけ」と思ったことはありませんか。 売れ筋の補充に追われる毎日だと、静かに眠っている在庫のことは、つい後回しになりがちです。
でも、その動かない在庫は、ただの箱ではありません。仕入れに使ったお金が、商品の姿のまま棚で眠っている状態です。銀行口座から現金が消えて、その分が段ボールに変わって積まれている——そう考えると、少しそわそわしてきませんか。今日は、「どの在庫がちゃんと働いていて、どの在庫が眠っているか」を数字で診断する方法を、在庫回転率と交叉比率という2つのものさしを使って、一緒に組み立てていきましょう。むずかしい会計の知識はいりません。電卓とエクセルがあれば大丈夫です。
結論:在庫効率の診断は、①在庫回転率で「どれだけ速く売れているか」を見る → ②交叉比率で「その在庫がどれだけ利益を生んでいるか」を見る → ③2つを重ねて商品を4タイプに仕分けるの3ステップです。
回転率だけを見ると「薄利でも回る商品」を過大評価し、粗利率だけを見ると「儲かるけど動かない不良在庫」を見逃します。2つを掛け合わせた交叉比率で見ると、「お金を置くべき商品」と「見直すべき商品」がはっきりします。
いま何が起きているか
売上や利益の話はよくしても、「在庫の効率」は意外と見落とされがちです。理由はシンプルで、在庫は損益計算書(1年間の儲けを表す表)にそのまま出てこないからです。棚に積まれた在庫は「資産」として別のところに記録され、売上や利益の数字だけを追っていると、その存在を忘れやすいのです。
けれど、在庫は確実にお金を使っています。
- 仕入れに使った現金が、商品の形で寝ている(その分、手元の資金が減る)
- 保管する倉庫代・管理の手間がかかり続ける
- 売れ残れば値下げ・処分で利益を削ることになる
とくにネットショップは、キャッシュフロー(手元のお金の出入り)が命です。キャッシュフローとは、実際に使えるお金がどれだけ入ってきて、どれだけ出ていくかの流れのこと。いくら帳簿上は黒字でも、在庫にお金を寝かせすぎると、次の仕入れや広告に回すお金が足りなくなります。「売れているのに、なぜかいつも金欠」の裏には、動かない在庫が潜んでいることが多いのです。
だからこそ、「この在庫は、置いたお金にちゃんと見合う働きをしているか」を測るものさしが必要になります。それが在庫回転率と交叉比率です。
具体例:2つのものさしで在庫を診断する

まず、2つのものさしを順番に見ていきます。数字は考え方を示すための例で、実データや自社実績ではありません。
ものさし①:在庫回転率=どれだけ速く売れているか
在庫回転率は、持っている在庫が一定期間に何回入れ替わったか(何回売り切れる分だけ売れたか)を表す数字です。回転が速いほど、お金が商品→現金→商品と早くめぐり、資金効率がよいと言えます。
いちばん分かりやすいのは、数で数えるやり方です。
在庫回転率(回)= その期間に売れた数 ÷ 平均在庫数
たとえば1年間に600個売れて、平均して常に100個の在庫を置いていた商品なら、600 ÷ 100 = 6回転。1年で在庫が6回入れ替わった計算です。回転率が高い=「置いた在庫が遊ばず、よく働いている」状態です。
(金額で見たい場合は「1年間の売上原価 ÷ 平均在庫金額(どちらも仕入れ原価ベース)」でも出せます。まずは主力商品を数ベースでざっくり出すところからで十分です。)
ものさし②:交叉比率=その在庫がどれだけ利益を生んでいるか
回転率だけだと、落とし穴があります。「よく回るけど、ほとんど儲からない商品」を高く評価してしまうのです。そこで、もうけの厚さを掛け合わせたのが交叉比率(こうさひりつ)です。交叉比率は、在庫に投じたお金がどれだけ粗利益を生んでいるかを表すものさしで、次の式で出します。
交叉比率(%)= 粗利率(%)× 在庫回転率(回)
ここで粗利率は、売上のうち原価を引いた「もうけ」がどれだけの割合かを示す数字です(粗利率=粗利益 ÷ 売上高。売価1,000円・原価600円なら粗利益400円で粗利率40%)。
交叉比率が高いほど、「少ない在庫で、厚い利益を、速く生んでいる」=在庫効率のよい商品ということになります。回転の速さ(①)と、もうけの厚さ(粗利率)の両取りを1つの数字で見られるのが強みです。
2つを重ねて、商品を4タイプに仕分ける
回転率と粗利率を縦横に取ると、商品は大きく4タイプに分かれます。ここが診断の要です。
| タイプ | 回転率 | 粗利率 | 状態と打ち手 |
|---|---|---|---|
| 稼ぎ頭 | 高い | 高い | 交叉比率が最も高い優等生。欠品させないよう在庫を厚めに確保 |
| 集客・数の商品 | 高い | 低い | よく売れるが薄利。ついで買い・セット販売で客単価を補う |
| 利益の隠れ資産 | 低い | 高い | 儲かるのに動きが鈍い。見せ方・露出を増やせば化ける余地あり |
| 見直し候補 | 低い | 低い | 在庫効率が最も悪い。値下げ処分・仕入れ縮小・撤退を検討 |
具体例で見てみましょう(数字は例です)。
- 商品A:粗利率20%・回転12回 → 交叉比率
20 × 12 = 240。薄利だがよく回る「集客・数の商品」 - 商品B:粗利率50%・回転2回 → 交叉比率
50 × 2 = 100。儲かるが動きの鈍い「利益の隠れ資産」 - 商品C:粗利率45%・回転10回 → 交叉比率
45 × 10 = 450。文句なしの「稼ぎ頭」
粗利率だけ見るとBが一番よく見えますが、交叉比率で見るとAの方が在庫効率は上(240 > 100)。回転だけ見るとAが優秀に見えますが、Cはさらに上です。片方のものさしだけでは、順位を見誤る——これが2つを重ねる理由です。
在庫効率や資金繰りの基本をもう少し体系的に知りたいときは、公的機関の解説も参考になります(例:中小機構が運営する経営情報サイトJ-Net21)。数字の定義は業界や会計方針で少し変わるため、最終的な判断は税理士など専門家に確認してください。
なぜ「回転率だけ」で判断してはいけないのか
在庫の話になると、つい「回転が速い=正義」と考えがちです。たしかに資金効率は大事ですが、回転率一本で判断すると、いくつかの落とし穴にはまります。
| ありがちな見方 | 起きやすいこと |
|---|---|
| 回転率だけで品揃えを決める | 薄利多売の商品ばかり残り、利益が痩せる |
| 回転が遅い=即カット | 実は高粗利の「隠れ資産」まで切ってしまう |
| 全商品を同じ基準で回す | 高額・低頻度の商品を「不良在庫」と誤判定する |
大切なのは、回転率と粗利率をセットで見て、交叉比率という共通のものさしに揃えること。そのうえで、回転が遅い高粗利商品(隠れ資産)は「切る」前に「もっと見せる」を試す。トップページや特集、レビューの見せ方を工夫するだけで動き出す商品は少なくありません。逆に、交叉比率が低いまま動かない商品は、季節の売り切り計画や仕入れ縮小で、寝ているお金を静かに回収していきます。
数字を扱うときの注意:交叉比率や回転率は、あくまで「どこに手をつけるか」の当たりをつける道具です。数字だけで機械的に撤退を決めず、季節性・新商品の立ち上がり時期・セット販売の一部かどうかも合わせて見てください。また、値下げ処分をする際に「参考価格」や「二重価格」を使う場合は、景品表示法の有利誤認(実際よりお得に見せること)に触れないよう、割引の根拠や期間を事実どおりに表示しましょう。
あなたへの影響
- 「なんとなく売れている気がする」ではなく、どの商品にお金を置くべきかを数字で説明できるようになる。仕入れ判断の会話がぶれなくなる。
- 動かない在庫(寝ているお金)を早めに見つけて回収できるので、キャッシュフローが軽くなり、次の仕入れや広告に回す余力が生まれる。
- 「稼ぎ頭・集客商品・隠れ資産・見直し候補」に仕分けることで、商品ごとに打ち手を変えられる。全部を同じように扱う無駄が減る。
明日やること
- 直近3〜6か月くらいで、主力商品10〜20品だけをエクセルに書き出す(いきなり全商品でなくてOK)。列は「販売数・平均在庫数・売価・原価」。
- 各商品の在庫回転率(販売数 ÷ 平均在庫数)と粗利率((売価−原価) ÷ 売価)を計算する。
- 2つを掛けて交叉比率(粗利率 × 回転率)を出し、大きい順に並べ替える。上位が「稼ぎ頭」、下位が「見直し候補」。
- 交叉比率が低い商品を3つ選び、「値下げ処分」「露出を増やす」「次回の仕入れを減らす」のどれで手を打つか決める。まずは1つ動かしてみる。
在庫効率 診断チェックリスト
- 主力商品について「販売数・平均在庫数・売価・原価」の4つを用意できている
- 在庫回転率(販売数 ÷ 平均在庫数)を出している
- 粗利率(粗利益 ÷ 売上)を出している
- 交叉比率(粗利率 × 回転率)で商品を並べ替えている
- 回転率だけ・粗利率だけで判断していない(2つを重ねている)
- 「稼ぎ頭/集客商品/隠れ資産/見直し候補」の4タイプに仕分けている
- 回転が遅い高粗利商品は、切る前に「見せ方の改善」を試している
- 値下げ処分の表示が景表法の有利誤認になっていない(割引根拠・期間が事実どおり)
倉庫の棚に積まれた在庫は、見ようによっては「まだ売上になっていない不安」の山です。でも見方を変えれば、正しく働かせれば現金に戻ってくれる、あなたのお金そのものでもあります。全部を完璧に管理する必要はありません。まずは主力の10品だけ、回転率と交叉比率を出してみる。それだけで、「どの棚にお金を置き、どの棚から回収するか」の景色が、はっきり変わって見えてきます。今日、いちばん気になる眠っている在庫を、ひとつだけ選んでみませんか。

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