複数の広告管理画面を見比べながら、店全体でどれだけ利益が残っているのかを一枚の紙にまとめようとしているショップ担当者

MER(統合ROAS)とは|広告と自然流入をまとめて採算を見る

「Google広告の管理画面を見ると、ROASは好調。楽天のRPPも悪くない。SNS広告も回っている。どの画面を開いても『広告費以上に売れています』と出ているのに、月末に通帳を見ると、なぜか思ったほどお金が残っていない」——複数の広告を回しはじめたECで、多くの人がこの不思議なズレに出会います。

その正体は、たいてい媒体ごとの数字を足し合わせたときに起きる「見え方のダブり」 にあります。各画面はそれぞれ自分の手柄として売上を数えるので、全部を足すと、実際の売上より大きくなってしまうのです。この、店全体を"1つの数字"で見るための考え方が、今日のテーマ MER(統合ROAS) です。むずかしい式は使いません。割り算ひとつで、「うちのお店は、広告費全体に対してどれだけ売れているのか」がスッと見えるようになります。

結論:MER(統合ROAS=Marketing Efficiency Ratio。お店全体の売上を、かけた広告費の合計で割った数字)は、「全体の売上 ÷ 全体の広告費」 で出します。媒体ごとのROAS(広告費に対する売上の見合い)を足し算するのではなく、お店の売上まるごと ÷ 広告費まるごとで見るのがポイントです。
こうすると、媒体をまたいだ二重カウントや、広告を使っていない自然の売上も含めた"お店の本当の採算" が1つの数字で分かります。まずは月ごとにMERを出し、損益分岐となるMER(これを下回ると赤字になる目安) と比べて、上回っているか下回っているかを見るところから始めましょう。

いま何が起きているか|媒体別ROASを足すと、売上が"水増し"される

広告を1つだけ回しているうちは、その媒体のROASを見ていれば十分でした。ROASは「広告費に対して、どれくらいの売上が出たか」を見る数字で、たとえば広告費10万円で売上40万円なら、ROASは400%(4倍)です。

ところが、Google・楽天・SNS・リターゲティングと媒体が増えてくると、話がややこしくなります。各媒体の管理画面は、「その広告がクリック(またはタップ)された注文は、自分の成果だ」 と数えます。ここで問題が起きます。

たとえば、あるお客さんが最初にSNS広告でお店を知り、後日リターゲティング広告をクリックし、最終的にGoogleの指名検索広告から購入したとします。この1件の注文を、SNS広告も、リターゲティング広告も、Google広告も、それぞれ「自分が獲得した」と数えることがあります。つまり、1件の売上が3回カウントされてしまうわけです。

この状態で各媒体のROASや「広告経由売上」をそのまま足し算すると、合計の広告経由売上が、お店の実際の売上を超えてしまうことすら起こります。管理画面はどれも好調なのに手元にお金が残らない、というモヤモヤの多くは、この二重カウント(複数の広告が同じ注文を取り合って数える) が原因です。誰かが嘘をついているわけではなく、それぞれの画面が「自分から見た景色」を正直に見せているだけなのです。

そこで役に立つのが、視点を1段上げてお店全体をまるごと見るMER(統合ROAS)です。誰が獲得したかの取り合いはいったん脇に置き、「全部の広告費を合わせて、お店の売上は全部でいくらになったか」だけを見ます。取り合いが起きようがないので、水増しされません。

MERは「お店全体の売上 ÷ 広告費全体」で出すことを示した図
MERは、媒体ごとの数字を足すのではなく「お店全体の売上 ÷ 広告費全体」でまるごと見る。

具体例|電卓ひとつで出すMER(3ステップ)

数字は説明のための例です(自社の実績ではありません)。自分のお店の数字に置き換えながら読んでください。まずは、いちばん基本となる「月ごとのMER」を出してみましょう。

ステップ1:全体の広告費を合計する

その月にかけた広告費を、媒体をまたいで全部足します。「どの広告がどれだけ売った」は、いったん気にしません。

ステップ2:全体の売上を用意する

その月のお店全体の売上(広告経由も、検索やSNSからの自然流入も、リピートも、ぜんぶ含めた総売上)を使います。ここが媒体別ROASとの大きな違いです。

ステップ3:割り算する(MER)

全体の売上 200万円 ÷ 全体の広告費 50万円 = 400%(MER=4.0)

これが、あなたのお店のMERです。「広告費全体に対して、お店全体で4倍の売上が立った」という意味になります。媒体別の管理画面がどう数えていようと、お店の財布から見た採算はこの1つの数字に集約されます。

項目例の数字メモ
Google広告20万円媒体別の内訳
モール内広告(RPP等)15万円媒体別の内訳
SNS広告10万円媒体別の内訳
リターゲティング広告5万円媒体別の内訳
広告費の合計50万円全部を足す
お店全体の売上200万円自然流入・リピートも含む総売上
MER(統合ROAS)400%(4.0)200万 ÷ 50万

売上と広告費という、通帳や集計表からすぐ取れる2つの数字だけで出せます。特別なツールは要りません。まずは先月ぶんを1回、電卓で出してみるのがおすすめです。

具体例|「損益分岐MER」と比べて、黒字か赤字かを判断する

MERを出せても、「4.0って、良いの? 悪いの?」が分からなければ動けません。そこで、自分のお店の損益分岐となるMER(これを下回ると赤字になる目安) を出して、ものさしにします。

考え方はシンプルで、粗利率(売上のうち、原価などを引いて手元に残る割合) から逆算します。仮に粗利率が30%だとすると、売上200万円のうち、広告費以外を引く前に使えるお金は60万円です。この60万円と広告費がトントンになる点が、損益分岐の目安です。

つまりこのお店では、MERが3.3を上回っていれば黒字方向、下回れば赤字方向、というざっくりした線が引けます。先ほどの例はMER4.0だったので、損益分岐の3.3を上回っており、広告費全体としては採算が取れている、と読めます。逆に、媒体別のROASはどれも好調に見えても、MERが3.3を割っていたら、「全体で見ると広告にお金を使いすぎている」というサインです。

この記事で出てくる主な数字
* ROAS:ある広告の、広告費に対する売上の見合い(媒体ごとに見る)
* MER(統合ROAS):お店全体の売上 ÷ 広告費全体(お店まるごとで見る)
* 損益分岐MER:1 ÷ 粗利率。これを下回ると赤字方向という目安

大切なのは、MERは「良し悪しを1回で決める点数」ではなく、推移で見る数字だということです。先月4.0だったMERが、今月広告費を増やしたら3.5に下がった——このとき「下がった=失敗」と早合点せず、「広告費を増やしたぶん、売上の伸びが追いついているか」を見ます。損益分岐の3.3を保てているなら、新規のお客さんを増やすための前向きな投資かもしれません。MERの上がり下がりと、その月に何をしたか(広告費を増やした・新媒体を足した・セールをした)をセットでメモしておくと、判断がどんどん正確になります。

具体例|MERと媒体別ROASは、役割が違う

「じゃあMERさえ見ればいいの?」というと、そうではありません。MERと媒体別ROASは、見ている高さが違うだけで、どちらも必要です。役割を分けて使いましょう。

たとえるなら、MERは飛行機の窓から見る「街全体が黒字の方向に進んでいるか」の景色、媒体別ROASは地上で「どの道が渋滞しているか」を見る地図です。全体(MER)で異変に気づき、内訳(媒体別ROAS)で原因の場所を探す。この行き来ができると、「管理画面は好調なのにお金が残らない」という迷子状態から抜け出せます。予算の配り方そのものを見直したいときは、EC広告予算の配分と媒体ミックスの決め方もあわせてどうぞ。

なお、複数の広告がどう協力して1件の注文につながったか(誰が入口で、誰が最後のひと押しだったか)をちゃんと分けて見たいときは、アトリビューション(貢献度の配分)という考え方が役立ちます。より正確に計測を整えたい段階になったら、アトリビューション分析 完全ガイド|広告と自然流入の貢献を分けるや、Google広告など各媒体のヘルプで計測設定を確認してみてください(Google 広告ヘルプ)。ただ、まず全体の採算を"はやく・ざっくり"つかむには、割り算ひとつのMERが最短ルートです。

あなたへの影響|「管理画面は好調なのにお金が残らない」の答えが出る

明日やること

  1. 先月の広告費を媒体をまたいで全部合計する(Google・モール内広告・SNS・リターゲティングなど、もれなく)。
  2. 先月のお店全体の売上(自然流入もリピートも含む総売上)を用意し、「売上 ÷ 広告費」でMERを出す。
  3. 自店の粗利率から「1 ÷ 粗利率」で損益分岐MERを出し、いまのMERが上回っているか下回っているかを確かめる。

MER(統合ROAS)は、あなたを責めるための数字ではありません。バラバラの管理画面に振り回されて「結局うちは儲かっているの?」と不安になっていた気持ちを、「全体ではこの位置にいる」という一枚の地図に変えてくれるものです。まずは先月の売上と広告費で、割り算を1回。その一手が、複数の広告に挟まれて見えなくなっていたお店の輪郭を、もう一度くっきりと照らしてくれます。

店全体の採算が1つの数字で見えるようになり、次の一手を落ち着いて考えられるようになったショップ担当者

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