片手に発注伝票、もう片方でスマホの在庫数を見ながら「今頼むべきか、もう少し待つべきか」と迷っているEC担当者の情景

安全在庫と発注点の計算|欠品と過剰を数式で防ぐ完全ガイド

「そろそろ発注したほうがいい気はする。でも、あと何個減ったら頼めばいいんだろう」。棚の残りをながめながら、毎回そんなふうに迷っていませんか。早めに頼めば在庫を持ちすぎるし、ぎりぎりまで待てば、入荷前に売り切れて機会を逃す。この「いつ・いくつ頼むか」を、毎回カンで決めているのが、じつは欠品と過剰が同時に起きる正体です。

前に基本編としてEC在庫管理の基本|適正在庫と発注点で「発注点」の考え方を紹介しました。今回はその続きとして、売れ方のブレ(=日によって売れる数が違うこと)と、入荷までの待ち時間から、安全在庫と発注点を"数式で"決めるところまで、いっしょに踏み込んでいきます。むずかしそうに見えて、電卓ひとつでできます。読み終える頃には、「感覚の発注」が「根拠のある発注」に変わっているはずです。

結論:発注のタイミングは、発注点(はっちゅうてん=これ以下になったら発注する在庫数)=「平均の1日販売数 × 入荷までの日数」+「安全在庫」 で決まります。カギは後半の安全在庫(切らさないための予備の在庫)を、勘ではなく「①どれだけ欠品を避けたいか(サービス率)」「②売れ方のブレの大きさ」「③入荷までの日数」の3つから計算すること。具体的には 安全在庫 = 安全係数 × 1日の販売数のブレ幅 × √(入荷日数)。この式で予備の量に根拠が持てると、切らさず・持ちすぎない一線を、商品ごとに引けるようになります。

いま何が起きているか|「◯日分の予備」だけでは足りない理由

多くのお店では、安全在庫を「だいたい2〜3日分くらい持っておこう」と、ざっくり日数で決めています。基本の入口としてはそれで十分です。ただ、扱う商品が増えて売れ方に差が出てくると、この「一律◯日分」が合わなくなってきます。

理由は、商品によって売れ方のブレ方がまったく違うからです。同じ「平均1日10個」でも、毎日きっちり9〜11個売れる安定した商品と、売れない日は2個・跳ねる日は30個という気まぐれな商品とでは、必要な予備の量はぜんぜん違います。安定した商品にたくさん予備を持てば過剰在庫(売れずに眠り、保管料や値引き処分で利益を削る在庫)になり、気まぐれな商品に予備が薄ければ、あっという間に欠品して機会損失(売れたはずの売上を逃すこと)が出ます。

もうひとつ効いてくるのが、入荷までの待ち時間(リードタイム=発注してから商品が届くまでの日数)です。この待ち時間が長いほど、「その間に何個売れるか読めない不安」も大きくなります。だから予備の在庫は、待ち時間が延びると、日数に単純に比例するのではなく、もう少しゆるやかに増やすのが理にかなっています(この理由は後で式に出てきます)。

つまり、必要な予備の量は「ブレの大きさ」と「待ち時間」で変わる。それを一律の勘でそろえてしまうから、片方で欠品し、片方で在庫が余るのです。ここを商品ごとに、しかも計算で決められるようにするのが、この記事のゴールです。

具体例|安全在庫と発注点を、実際に計算してみる

在庫が日々減っていき、発注点の線で発注、入荷までを安全在庫の帯でしのぐ流れと、売れ方のブレ幅を点線の幅で示した概念図
在庫は毎日減り、発注点の線に届いたら発注する。売れ方のブレ(点線の幅)が大きいほど、下に敷く安全在庫の帯を厚くする。

順番に、3つのステップで組み立てます。とりあえず1商品ぶんを電卓でなぞってみてください。

ステップ1|「どれだけ欠品を避けたいか」を決める(サービス率)

まず、この商品を「入荷までの間に、どのくらいの確率で切らさずに回したいか」を決めます。これをサービス率(欠品せずに需要に応えられる割合。裏を返せば "欠品率=100%−サービス率") と呼びます。100%(絶対に切らさない)を目指すと予備が無限に必要になるので、現実には主力なら95%前後、そこそこの商品は90%前後、が目安です。

このサービス率を、計算で使う安全係数(あんぜんけいすう=どれだけ余裕を持たせるかの倍率)に置き換えます。細かい理屈は抜きにして、次の対応表を使えばOKです。

目標のサービス率(切らさない確率)安全係数
90%(10回に1回くらいは欠品を許容)1.28
95%(主力商品の目安)1.65
98%2.05
99%(絶対に切らしたくない看板商品)2.33

「切らしたくない商品ほど、係数(倍率)を大きくする」。まずはこれだけつかめれば十分です。

ステップ2|売れ方のブレ幅を出す(1日の販売数のばらつき)

次に、その商品が1日に売れる数のブレ幅を出します。専門的には標準偏差(ひょうじゅんへんさ=平均からどれくらい散らばっているかを表す数字)といいますが、身がまえなくて大丈夫。表計算ソフトに直近30日ぶんくらいの日別販売数を入れて、=STDEV(範囲) と打つだけで出ます。

ここでは例として、ある商品の直近実績が 平均1日10個、ブレ幅(標準偏差)4個 だったとします。「だいたい10個前後だけど、少ない日も多い日もあって、上下に4個くらい散らばっている」というイメージです。

ステップ3|安全在庫と発注点を計算する

いよいよ計算です。安全在庫は、次の式で出します。

安全在庫 = 安全係数 × 1日の販売数のブレ幅 × √(入荷までの日数)

入荷までの日数(リードタイム)を 4日、サービス率は主力なので 95%(安全係数1.65) としましょう。ブレ幅は4個。あてはめると、

「入荷日数のルート(√)を掛ける」のがポイントです。待ち時間が2倍(4日→8日)になっても、予備は2倍ではなく√2倍(約1.41倍)にしかならない。待ち時間が延びるほど不安は増えるけれど、日数ぶんまるまる予備を積む必要はない、という現実に合った増え方をしてくれます。

最後に、発注点を出します。

発注点 = 平均の1日販売数 × 入荷までの日数 + 安全在庫

つまり「在庫が54個まで減ったら、決めた数を発注する」と運用すればよい、と数字で言えるようになりました。入荷までの4日で平均40個売れても、予備14個があるので、多少売れ行きが跳ねても切らさずに踏ん張れます。

補足|ブレの大きさで、必要な予備はこんなに変わる

同じ「平均10個・入荷4日・サービス率95%」でも、ブレ幅が違うと安全在庫はこう変わります(数値は例)。

売れ方ブレ幅(標準偏差)安全在庫発注点
安定している2個1.65×2×2 = 6.6 → 7個47個
ふつう4個1.65×4×2 = 13.2 → 14個54個
気まぐれ8個1.65×8×2 = 26.4 → 27個67個

平均が同じでも、気まぐれな商品は予備を約4倍持たないと同じ安心感にならない、というのが数字で見えます。「一律◯日分」では、この差を吸収できないわけです。

発注の仕組みは2タイプ|自店に合うほうを選ぶ

ここまでは「発注点まで減ったら発注する」やり方(定量発注=決まった量をそのつど頼む)で説明しました。もうひとつ、定期発注(毎週月曜など、決まった日に、目標在庫まで足りない分を頼む)という型もあります。

どちらが良い・悪いではなく、商品の重要度と、発注業務のまわしやすさで選びます。まずは主力を定量発注(発注点方式)で固め、その他を定期発注でまとめる、という組み合わせが現実的です。

注意|数式は"たたき台"、最後は現場の目で
・入荷日数そのものがブレる商品(仕入先が遠い・海外など)は、本来その遅れの不安も上乗せします。まずは入荷日数を長めの実績値で置くと安全側に倒せます。
・季節商品・新商品・セール直前は、過去の平均が当てになりません。式に頼りきらず、季節商品・トレンド品の在庫リスク管理の考え方で別枠の判断を。
・欠品ゼロを狙って係数を上げすぎると、在庫に化けたお金(キャッシュ)が寝ます。在庫は資産=お金であることを、EC利益率と原価管理の入門の視点とセットで見てください。

あなたへの影響|「予備の量」に根拠が持てると、判断が速くなる

安全在庫と発注点を計算で決められるようになると、日々の在庫の悩みが、目に見えて軽くなります。

まず、発注の「いつ・いくつ」で迷う時間が減ります。在庫がその数を切ったら発注する、と決まっているので、棚を見て毎回悩む必要がありません。判断が仕組みに乗ると、担当が変わっても運用がブレにくくなります。

次に、欠品と過剰の"どちらも"減らせます。ブレの大きい商品には予備を厚く、安定した商品には薄く――と、必要なところに必要なだけ在庫を置けるので、機会損失を防ぎつつ、寝てしまうお金も減らせます。とくに広告費をかけて集客している商品は、欠品が即・機会損失になるため、ここを数式で守れる意味は大きいです。

そして、上司や仕入先に「なぜこの数か」を説明できるようになります。「なんとなく多め」ではなく、「サービス率95%で、ブレがこれくらいだから安全在庫はこの量」と言えると、仕入れの交渉も社内の合意も進めやすい。数字は、迷いを消すだけでなく、人を動かす言葉にもなります。

一方で忘れないでほしいのは、この式は完璧な予言ではないということ。あくまで過去の実績から作った"たたき台"です。急なバズや販売終了、仕入先のトラブルは式の外側で起きます。だからこそ、月に一度は平均とブレを最新の実績で入れ直し、現場の感覚とすり合わせる。計算と目視の両輪で回すことが、いちばん切らさない在庫管理につながります。

明日からやること

  1. 主力3〜5商品を選ぶ。まずは店の売上の大半を支える商品だけで十分です。全部を一度に管理しようとしない。
  2. 直近30日ほどの「日別販売数」を用意する。表計算ソフトに並べ、平均(=AVERAGE)とブレ幅(=STDEV)を出す。
  3. 各商品の入荷までの日数(リードタイム)を仕入先に確認する。ブレる相手なら、長めの実績で置く。
  4. サービス率を決める(主力なら95%=安全係数1.65が目安)。看板商品だけ99%に上げる、などメリハリを付ける。
  5. 安全在庫=安全係数×ブレ幅×√入荷日数、発注点=平均日販×入荷日数+安全在庫 を計算し、シートに書き込む。
  6. 「その数を切ったら発注する」ルールを1つ決めて運用する。月に一度、平均とブレを入れ直して見直す。

いきなり全SKU(商品の色・サイズ違いまで含めた管理の単位)でやろうとすると挫折します。まずは1商品、電卓でこの記事の例をなぞってみるところから。1つ腹落ちすれば、あとは横展開するだけです。

安全在庫・発注点の設計 チェックリスト

売れ筋を切らして悔しい思いをするのも、動かない在庫を前にため息をつくのも、あなたの努力不足のせいではありません。ただ、発注の「いつ・いくつ」を勘に任せていただけ。今日、いちばん大事な1商品の日別販売数を並べて、平均とブレを出してみてください。そこから安全在庫と発注点を一度計算すれば、明日からの発注は「迷う作業」ではなく「決まった判断」に変わります。小さな一歩ですが、そこから在庫は"設計"で回せるようになります。

在庫がほどよく整った棚の前で、計算した発注点のメモを手に、迷いの晴れた表情で軽くうなずくEC担当者の情景

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参考(公式・一次情報)