
お気に入り・ウィッシュリスト活用で再訪とリピートを増やす
ネットショップを見ていて、「いいな。でも今日はやめておこう」と、そっとページを閉じた経験はありませんか。給料日の前だったり、他と見比べたかったり、理由はさまざまです。そして多くの場合、そのお客さんは——二度と戻ってきません。せっかく「いいな」と思ってくれたのに、きっかけがないまま忘れられてしまう。これは、ECの現場でいちばん静かに、いちばん大きく取りこぼしている瞬間かもしれません。
今日のテーマは、その「今日は買わない人」との細い糸を残す仕組み、お気に入り・ウィッシュリスト(気になる商品を保存しておける機能)の活用です。すぐ買わない人を無理に追いかけるのではなく、「また来やすい入り口」をそっと用意しておく。そうすると、広告費をかけずに再訪とリピートをじわじわ増やせます。いっしょに、押し売りにならない登録の促し方と、通知の設計を見ていきましょう。
結論:お気に入り・ウィッシュリスト登録は、「今日は買わない」お客さんとの関係を切らさないための、いちばん軽いつながりです。狙いは今すぐの購入ではなく、「また来てもらう理由」を残すこと。ポイントは3つ。①登録のハードルを下げる(会員登録やログインを入り口にせず、ワンタップで保存できるようにする)、②戻ってくるきっかけを通知で届ける(再入荷・値下げ・在庫残りわずかを、売り込みすぎず事実として伝える)、③通知は同意と正直さを守る(配信の同意や、値下げ表示のルールに注意する)。この3つがそろうと、迷って離れた人を、広告費をかけずにそっと連れ戻せます。
いま何が起きているか|「今日は買わない人」を取りこぼしていないか
ECの改善というと、どうしても「今まさに買おうとしている人」をどう後押しするかに目が向きます。カゴ落ち(商品をカートに入れたのに購入まで進まないこと)対策や、購入ボタンの改善などです。それはとても大事なのですが、その手前には、カートに入れるところまでも行かずに「気になるな」で離れていく、もっと大きな人数の層がいます。
この層は、買う気がないわけではありません。「今は」買わないだけで、タイミングや背中を押す理由がそろえば、戻ってくる可能性が十分にある人たちです。ところが、何の記録も残らないまま離れてしまうと、こちらからは二度と声をかけられません。再び来てもらうには、また広告費を払って集め直すことになります。
ここで効くのが、お気に入り・ウィッシュリスト登録という「いちばん軽い約束」です。買うほどの決心はいらない。ただ「気になる」を保存するだけ。お客さんにとっては「また探す手間が省ける」便利な機能であり、お店にとっては「この人は、この商品が気になっている」という貴重なサインになります。カートに入れた人を追うカゴ落ちメール・LINEの自動化フローの、もう一歩手前にある接点だと考えると分かりやすいでしょう。
お気に入り登録には、もう一つ見落としがちな効果があります。それは、再訪のきっかけを、こちらから作れるようになること。「保存した商品が値下げされました」「再入荷しました」とそっとお知らせできれば、忘れかけていたお客さんの背中を、押し売りせずに押せます。すぐ買わない人との関係を細く長くつなぐこの発想は、休眠顧客の掘り起こしとも地続きです。
具体例|「保存 → 通知 → 再訪」を3つのステップで組み立てる

お気に入り・ウィッシュリストを再訪につなげるには、次の3ステップで組み立てると無理がありません。保存のハードルを下げる → 戻るきっかけを届ける → 通知を正直に送る、の順で見ていきましょう。
① 保存のハードルを下げる(ワンタップで気軽に)
まず大事なのが、「保存する」こと自体を、できるだけ軽くすることです。ここで会員登録やログインを求めてしまうと、「そこまでは…」と多くの人が離れてしまいます。
- 商品ページやサムネイルに、ハート(♡)などの保存ボタンを分かりやすく置く。押せば保存できることが、ひと目で分かる形にする。
- できれば、ログイン前でもいったん保存できるようにする(その端末に一時的に覚えておき、後でログインすると引き継げる、など)。いきなり会員登録を壁にしない。
- 保存したあとに、「保存しました。マイページからいつでも見られます」と、どこで見返せるかをやさしく伝える。保存したことを忘れさせない。
「後で買う」「お気に入り」「ウィッシュリスト」など呼び方はお店によって違いますが、役割は同じです。迷っている人の「気になる」を、消えないように受け止める器を用意する、と考えてください。
② 戻ってくるきっかけを通知で届ける
保存してもらえたら、次は「戻ってくる理由」をこちらから届ける番です。お客さんは日々忙しく、保存したこと自体を忘れています。だからこそ、タイミングよく事実をお知らせするだけで、再訪のきっかけになります。
- 再入荷のお知らせ:売り切れで保存された商品が入荷したら「ご覧いただいていた商品が入荷しました」と伝える。再入荷通知の設計は再入荷通知・入荷待ちの設計が詳しいです。
- 値下げ・セールのお知らせ:保存された商品が値下げされたら「お気に入りの商品がお求めやすくなりました」と伝える。価格で迷っていた人に効きます。
- 在庫が少なくなったお知らせ:「残りわずか」を事実として伝える。ただし、うその希少性で焦らせないこと(考え方は「残りわずか」の見せ方を参照)。
通知の宛先は、メールだけでなくLINEやアプリのプッシュ通知も有効です。開封されやすいチャネルを使い分ける考え方は、LINE公式アカウントの友だちの増やし方もあわせて参考になります。どのチャネルでも共通して意識したいのは、「売り込み」ではなく「あなたが気にしていた、あの商品の続報ですよ」という、お客さん本位のお知らせにすることです。
③ 通知は「同意」と「正直さ」を守る
再訪のきっかけづくりは強力ですが、送り方を間違えると逆効果です。ここは丁寧に押さえましょう。
- 配信の同意を取る:広告・宣伝を含むメール配信には、原則として事前の同意(オプトイン)と、配信停止の方法を示すことが求められます(特定電子メール法)。お気に入り通知を送る前に、同意を得られる導線になっているか確認してください。考え方は総務省の特定電子メールの送信の適正化等に関する法律で確認できます。
- 値下げ表示を正直にする:「通常〇〇円→〇〇円」のような比較価格(二重価格)を見せるときは、その「通常価格」が実際に販売していた値段であること。架空の高い値段と比べる見せ方は避けます。価格の見せ方は価格の見せ方|参考価格・送料込み表示の工夫もどうぞ。
- 送りすぎない:通知が多すぎると、かえって配信停止や通知オフにつながります。「このお客さんが保存した商品に、意味のある変化があったときだけ」を基本にします。
価格や在庫の表示を、事実と違う形でお得・希少に見せると、景品表示法の観点で問題になり得ます。基本的な考え方は消費者庁の表示対策(景品表示法)で確認できます。
やりがちなNGと、その直し方
・保存に会員登録・ログインを必須にする:入り口で離脱され、保存されない。→ まずはワンタップで保存できるようにし、ログインは後からでも引き継げる形に。
・保存させるだけで通知しない:お客さんは保存したこと自体を忘れる。→ 再入荷・値下げなど、戻る理由を事実としてお知らせする。
・同意なく通知を送る/停止導線がない:信頼を失い、法令上も問題になり得る。→ 事前の同意と配信停止の方法を必ず用意する(特定電子メール法)。
・うその「値下げ」「残りわずか」で焦らせる:短期的に効いても信頼を損なう。→ 本当の事実だけを正直に伝える。
ここで挙げた施策や頻度はすべて例です。自店の商材やお客さんの購入サイクル、使っているカート・配信システムの機能に合わせて調整してください。
あなたへの影響
- 「今日は買わない人」との糸を残せると、広告費をかけずに再訪とリピート率(もう一度買ってくれた人の割合)を伸ばせます。すでに興味を持ってくれた人への再アプローチなので、新規集客より費用対効果が分かりやすい施策です。
- お気に入りの登録状況は、「どの商品が、買う手前まで来て迷われているか」という生のサインになります。保存は多いのに売れていない商品は、価格や不安要素に見直しの余地があるかもしれません。初回購入者を2回目につなげるF2転換の前段として、迷いの可視化にも使えます。
- 通知を「お客さん本位のお知らせ」として届ければ、売り込みではなく"気にかけてくれている"という印象につながります。この積み重ねが、1人のお客さんが長く買ってくれる関係(LTV=1人のお客さんが生涯にわたって使ってくれる金額)を育てます。
明日やること
- 自分のお店のカート・サイトに、お気に入り(ウィッシュリスト)機能があるか、どこに保存ボタンがあるかを、お客さんの目線で確認する。分かりにくければ位置やラベルを見直す。
- 保存に会員登録・ログインが必須になっていないかを点検する。必須なら、ワンタップで保存→後からログインで引き継ぎ、の形にできないか検討する。
- 再入荷・値下げの通知を送れる仕組みがあるかを確認する。なければ、まず「再入荷通知」だけでも始められないか調べる。
- 通知を送る前に、配信の同意(特定電子メール法)と配信停止の導線が整っているかを確認する。不安なら専門家に相談する。
- 値下げ・在庫の表示が正直か(うその二重価格・希少性になっていないか)を点検する。
お気に入り・ウィッシュリスト活用 見直しチェックリスト
- 商品ページ・一覧に、分かりやすい保存ボタン(♡など)がある
- 保存に会員登録・ログインを必須にしていない(後から引き継げる)
- 保存後に「どこで見返せるか」をお客さんに伝えている
- 再入荷の通知を送れる仕組みがある
- 値下げ・セールの通知を送れる仕組みがある
- 通知の配信に同意(オプトイン)を得る導線がある(特定電子メール法)
- 配信停止・通知オフの方法を分かりやすく示している
- 値下げ表示が正直である(実売価格と比べた二重価格になっていないか)
- 「残りわずか」はうそではなく、本当の在庫状況のときだけ伝えている
- 通知を送りすぎず、意味のある変化があったときに絞っている
「今日は買わない」と離れていくお客さんは、あなたのお店を嫌いになったわけではありません。ただ、タイミングが合わなかっただけ。お気に入り・ウィッシュリストは、その人との細い糸を切らさずに残しておく、いちばん優しい仕組みです。保存は軽く、通知は正直に、そして相手が気にしていたことへの続報として。そうやって「また来やすい入り口」を用意しておけば、迷って離れた人が、ふとした通知をきっかけに戻ってきてくれます。今日はまず、自分のお店の保存ボタンを、お客さんの目線で一度さわってみることから始めてみませんか。

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