パソコンの前で、生成AIを使う手を少し止めて「これは入力していいのかな」と考えるEC担当者

生成AIをEC業務に安全に使う社内ルールの作り方|漏えいと誤情報を防ぐ

「便利だから、スタッフがそれぞれ自分の判断で使ってるんです」——生成AIの話をECの現場ですると、よくこう返ってきます。商品説明の下書き、メルマガの件名出し、問い合わせ返信のたたき台。たしかに、日々の作業がぐっと軽くなる。けれど、ふと不安がよぎりませんか。「お客さまの名前や住所、そのまま入力しちゃってないかな」「AIが作った文章、間違ったまま公開してないかな」と。

生成AI(文章や画像を自動で作ってくれるAIツール。ChatGPTなどが代表例)は、もう「使うか・使わないか」の段階を過ぎつつあります。問題は、使い方の線引きが人によってバラバラなまま広がることです。誰かが良かれと思ってお客さまの個人情報を貼り付けたり、AIが作ったもっともらしい嘘をそのまま案内に載せたり。事故が起きてから慌てないために、今日は「使うのを止める」のではなく、現場が迷わず安全に使える社内ルールを、A4一枚くらいの分量で一緒に作る話をします。

結論:禁止でも野放しでもなく、「入れていい情報・ダメな情報」「AIに任せていい工程・人が必ず確認する工程」の2つの線引きを紙一枚に決めるのが、いちばん効きます。細かく縛るより、(1)個人情報や社外秘は入れない、(2)AIの出力は人が事実確認してから使う、この2本を全員が守れる形にするのが出発点です。
生成AIの事故は「悪意」よりも「知らずにやってしまった」で起きます。だからルールは、罰則より“分かりやすさ”を優先して作ります。

いま何が起きているか

生成AIが現場に広がるスピードに、ルール作りが追いついていません。多くのお店では、ツールの導入や利用は各担当の判断に任され、「何を入力していいか」の共通認識がないまま使われています。ここで起きやすい事故が、大きく2つあります。

1つ目は、情報漏えいです。お客さまの氏名・住所・電話番号・注文番号や、仕入れ先との条件・原価といった社外秘を、そのままAIに入力してしまうケース。多くの生成AIサービスは、入力した内容が学習や品質改善に使われる場合があり(設定で止められることもありますが)、一度外に出た情報は取り戻せません。個人情報の扱いには法律上のルールがあり、個人情報保護委員会も生成AIサービスの利用にあたって個人情報の入力に注意するよう呼びかけています。「便利だから」で個人情報を渡してしまうのは、お店の信用に直結するリスクです。

2つ目は、誤情報(ハルシネーション)です。ハルシネーションとは、AIがもっともらしい嘘や間違いを、自信たっぷりに作ってしまう現象のこと。存在しない返品条件、間違った成分表示、実在しない法律の引用などを、本当のことのように書いてしまいます。これを確認せずに商品ページや案内に載せると、お客さまへの誤案内や、景表法薬機法(広告表現の法律)に触れる表現につながりかねません。

つまり、「入り口(何を入力するか)」と「出口(出力をどう扱うか)」の両方に穴が開いている状態です。ルール作りは、この2つの穴をふさぐことだと考えると、迷いにくくなります。

具体例:A4一枚で作る「生成AI利用ルール」の中身

生成AIの「入力してよい情報・ダメな情報」と「出力を人が確認する流れ」を入り口と出口で示した図
ルールは「入り口」と「出口」の2か所に置く。入れてよい情報を絞り、出てきた文章は人が事実確認してから使う。この2点が土台。

難しい規程集にする必要はありません。スタッフが読んで、その場で「あ、これはダメなんだ」と分かる一枚を目指します。中身は、次の4つのブロックで十分です。

① 入れていい情報・ダメな情報(入り口のルール) いちばん大事なブロックです。具体的に線を引きます。

たとえば問い合わせ返信の下書きを頼むときは、「山田様」ではなく「お客さま」に、注文番号は消してから渡す。この“ひと手間”をルールにするだけで、漏えいの多くは防げます。

② AIに任せる工程・人が必ず確認する工程(出口のルール) AIは「下書きまで」、公開や送信の判断は人、と決めます。とくに、送料・返品・納期・在庫・成分・価格といった「お客さまへの約束」に関わる事実は、AIの出力をうのみにせず、元の資料と必ず突き合わせる。効果・効能をうたう表現(化粧品・健康食品など)は、薬機法の観点で人がチェックする。この「事実は人が確認」を外さないことが、誤案内を防ぐ生命線です。

③ 使ってよいツール・アカウント 「どのツールを、どのアカウントで使うか」を決めます。無料版か、入力内容を学習に使わない設定にした業務用アカウントか。個人の私物アカウントで会社の業務情報を扱わない、という一文もあると安心です。迷ったら管理者に相談、の窓口も決めておきます。

④ 困ったときの相談先と、やってしまったときの報告 「これは入力していい情報か迷った」ときの相談先と、「うっかり個人情報を入れてしまった」ときの報告先を明記します。責めるためではなく、早く気づいて手を打つため。隠す方がこわい、という空気を作るのが目的です。

やりがちなNGと、その直し方
「AI禁止」で終わらせる:隠れて使われ、かえって管理できない。→ 禁止ではなく「安全な使い方」を配る。
ルールが長すぎて誰も読まない:A4一枚に収め、NG例を具体的に。→ 「氏名・住所・注文番号は入れない」まで書く。
出力を確認せず公開・送信:誤案内や法律違反のもと。→ 事実に関わる部分は元資料と突き合わせる工程を必須に。
私物アカウントで業務情報:管理も設定も追えない。→ 使うアカウントとツールを指定する。

このルールは、一度作って終わりではありません。新しいツールが増えたり、ヒヤリとしたことがあったら、そのつど一行ずつ足していく“育てる紙”として運用するのがおすすめです。生成AIをどんな業務まで自動化するかの全体像は、AIエージェントでEC運営を自動化する|実例と始め方もあわせてどうぞ。

コピペで使えるプロンプト

「ルールをゼロから書くのが大変」という方向けに、あなたのお店に合わせた“たたき台”を生成AI自身に作ってもらうプロンプトを用意しました。下の枠をまるごとコピーして、〈〉の中をあなたのお店の状況に置き換えて使ってください。出てきた案は、そのまま採用せず、必ず人が読んで、自店の実態に合うよう直してから配りましょう。

あなたはEC事業者の情報管理をサポートするアドバイザーです。
以下の入力素材をもとに、スタッフがA4一枚で読める「生成AI利用ルール」のたたき台を作ってください。

# 入力素材
- 店舗の規模:〈個人/スタッフ数名/10名以上 などから1つ〉
- 生成AIを使いたい業務:〈商品説明の下書き・メルマガ件名・問い合わせ返信のたたき台 など〉
- 扱う要注意情報:〈お客さまの氏名や住所・注文番号/仕入れ原価/未公開の商品情報 など〉
- 使う予定のツール:〈無料の生成AI/業務用アカウント など。分かる範囲で〉

# 出力条件
- 次の4ブロックで構成する:①入れていい情報・ダメな情報、②AIに任せる工程・人が確認する工程、③使ってよいツールとアカウント、④相談先と報告の流れ。
- ①では、入れてはいけない情報を具体名(氏名・住所・注文番号など)で列挙する。
- 専門用語には短いやさしい補足を付ける。スタッフが読んですぐ分かる言葉で。
- 罰則を並べるより「なぜダメか」が伝わる書き方にする。全体でA4一枚程度。

# 禁止
- 法律の条文番号や制度の詳細を、事実確認なしに断定して書くこと(「専門家に確認」と促すに留める)
- 特定のツール名を「安全」と断定すること
- 実在しないガイドラインや出典をでっち上げること

まずはこのたたき台を、朝礼やチャットでスタッフに共有し、「うちだとこの情報が抜けてる」という声を集めて直していくと、現場になじむ一枚に育ちます。

あなたへの影響

明日やること

  1. いま社内で、生成AIが「どの業務で・誰に・どう使われているか」をざっと洗い出す(把握が第一歩)。
  2. 上の「コピペで使えるプロンプト」で利用ルールのたたき台を作り、①の「入れてはいけない情報」を自店の言葉で具体化する。
  3. たたき台をスタッフに共有し、「この情報は入れていい?」と迷いやすい場面を出し合って、OK/NGの例を追記する。
  4. 完成した一枚を、いつでも見られる場所(共有ドライブやチャットの固定)に置き、新しいツールやヒヤリがあれば一行ずつ更新する運用にする。

生成AI利用ルール チェックリスト

生成AIは、正しく線を引けば、EC運営の心強い相棒になります。こわいのはツールそのものではなく、線引きがないまま「なんとなく」使い続けることです。難しく考えず、まずは「入れていい情報・ダメな情報」の一行から。紙一枚の安心が、スタッフを迷いから解放し、お店の信用を守ってくれます。今日、その最初の一行を書いてみませんか。

生成AIの使い方の線引きが決まり、安心して前向きに業務へ向かうお店のスタッフたち

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参考(公式・一次情報)