卸の事務所でFAXと電話とExcelに追われていた担当者が、取引先ごとの注文をネットの管理画面でまとめて確認できるようになり、ほっと肩の力が抜ける情景

BtoB EC(卸・業務用サイト)の作り方|会員価格・掛け売り・見積もりの設計

取引先から「いつものアレ、いつもの数だけお願い」という電話。FAXで届いた手書きの注文書。得意先ごとにバラバラな掛け率をExcelで確認しながら、請求書は月末にまとめて作成——。卸や業務用の商売をしていると、こんな受注業務に一日の多くを取られていませんか。数が増えるほど、聞き間違いや転記ミスも起きやすくなります。「注文はネットで受けられたらラクなのに」と思いつつ、一般のお客様向けのネットショップとは勝手が違いそうで、なかなか踏み出せない。そんな声をよく聞きます。

でも、大丈夫です。BtoB EC(企業間取引を行うネットショップ。取引先=お店や会社が発注するためのサイト)は、一般消費者向けのネットショップとは設計の勘どころが違うだけで、順番に組み立てれば必ず形になります。むしろ、注文の型が決まっている卸の商売こそ、ネット化の効果が大きい領域です。今日は、会員価格・掛け売り・見積もり・最低ロットといった卸ならではの仕組みを、どこから手をつければいいか、いっしょに整理していきましょう。

結論:BtoB EC(企業間の取引をネットで受けるサイト)は、BtoC(一般のお客様向けの販売)と同じ発想では作れません。押さえるべきは大きく4つ、①取引先ごとの会員価格(得意先で単価が変わる)→②掛け売り(後払い)と与信(後払いを認めてよいか見きわめる)→③見積もり・相談への導線→④最低ロット・入り数のルールです。まずは「今の取引をそのままネットに写す」ところから小さく始め、受注ミスと事務作業を減らすことを最初のゴールにしましょう。この記事の数値や制度は理解のための目安です。取引条件や下請取引のルールは公正取引委員会の情報も確認し、契約や与信の判断で不安があれば専門家に相談してください。

いま何が起きているか|卸の受注が「電話・FAX」から「ネット」へ動いている

長いあいだ、企業間の注文は電話・FAX・メール・営業担当への口頭が中心でした。ところが近年、この受発注をネットに移す動きが、中小の卸やメーカーにも広がっています。背景にあるのは、人手不足と、取引先側の「発注もネットで済ませたい」という変化です。取引先の担当者も、日中は忙しく、営業時間外にスマホから発注したい場面が増えています。

BtoB EC化がもたらす効果は、主に3つです。

一方で、BtoB ECはBtoC(一般消費者向け)のネットショップをそのまま流用しても、うまくいきません。理由は、価格・支払い・注文単位のルールが根本から違うからです。ここを設計せずに「とりあえずカートを付けた」だけのサイトは、取引先に使ってもらえません。次章で、その4つの勘どころを見ていきます。販路の広げ方全体は販路拡大の選び方|自社/モール/卸の使い分けもあわせて読むと、自社ECの中でのBtoBの位置づけが見えてきます。

具体例|BtoB ECで設計すべき「4つの勘どころ」

BtoB ECで設計すべき4つの要素(会員価格・掛け売りと与信・見積もり導線・最低ロット)を4枚のカードで並べた図
卸ECの背骨は4つ。「会員価格」「掛け売り」「見積もり」「最低ロット」を先に決めると、サイトの形が決まる。

BtoB ECを作るとき、先に決めておくと迷わない要素が4つあります。順番に見ていきましょう。

①会員価格|取引先ごとに単価が変わる BtoBでは、同じ商品でも取引先によって卸値が違うのがふつうです。取引量の多い得意先には安く、新規には標準の掛け率で——という具合です。ここがBtoCと最も違う点です。だから、BtoB ECはログインしないと価格が見えない/ログインした取引先ごとに専用の単価が表示される設計が基本になります。まずは取引先を数段階のランク(例:標準・優良・特約)に分け、ランクごとに掛け率を決めるところから始めると、管理がシンプルになります。取引先のランク設計の考え方は、一般消費者向けですが会員ランク・ポイント制度の設計の「原資から逆算する」発想が参考になります。

②掛け売り(後払い)と与信|「後で払う」を認めてよいか見きわめる BtoBの取引は、その場で決済せず、掛け売り(商品を先に納品し、月末などにまとめて請求する後払い)が一般的です。ここで欠かせないのが与信(相手に後払いを認めてよいか、支払い能力を見きわめること)です。新規の取引先にいきなり大きな掛け売りを認めると、代金を回収できないリスク(貸し倒れ)があります。対策として、次のような組み立てが現実的です。

決済手段そのものの選び方は決済代行会社の選び方と手数料比較も参考になります。なお、卸・製造委託などで相手が下請にあたる取引には、支払い遅延の禁止など下請法(下請代金支払遅延等防止法)のルールが関わることがあります。自社の取引が該当するかは公正取引委員会の情報を確認し、判断に迷えば専門家に相談してください。

③見積もり・相談への導線|「カートで即注文」だけにしない BtoBでは、「大量に買うから値引き交渉したい」「初めてなので条件を相談したい」というニーズが必ず出ます。すべてをカートで完結させようとせず、見積もり依頼・問い合わせのボタンを分かりやすく置きましょう。商品ページから「この内容で見積もりを依頼する」に進めるだけで、電話・FAXが減り、やり取りの記録も残ります。カートに入れた内容をそのまま見積もり依頼に変えられる仕組みがあると、取引先の手間がぐっと減ります。

④最低ロット・入り数のルール|業務用ならではの注文単位 業務用・卸では、「1個から」ではなく「1ケース(○個入り)から」「最低○円以上から」といった注文単位(最低ロット、MOQ=最小発注数量)があります。これを商品ページとカートの両方で明示し、満たさない注文はそのまま進めないようにします。入り数・ロットの表示があいまいだと、受注後の「その数では出せません」というやり取りが増えてしまいます。仕入れ側の視点は商品の仕入れ先・卸の選び方、自社商品を卸す前段のOEM・オリジナル商品の作り方と最小ロットもあわせてどうぞ。

やりがちなNGと、その直し方
・BtoCサイトをそのまま流用して価格を全公開:取引先ごとの卸値が全員に見えてしまう。→ ログイン後に取引先別価格を表示する設計にする。
・新規にいきなり掛け売りを認める:貸し倒れのリスク。→ まず前払い、実績を見て与信枠を設定。
・すべてカートで完結させようとする:相談・大口交渉の受け皿がない。→ 見積もり・問い合わせ導線を必ず併設。
・最低ロットをカートで縛っていない:受注後に「出せません」が発生。→ 商品ページとカートの両方でロットを明示・制御。
・BtoBとBtoCを1つのサイトに無理やり同居:表示も運用も複雑化。→ まずはどちらが主かを決め、必要なら入口や表示を分ける。

あなたへの影響

明日やること

  1. 今の取引を1枚に棚おろしする。「取引先」「掛け率(ランク)」「支払い条件(前払い/掛け売り)」「最低ロット」を、主要な取引先ぶんだけでも書き出します。これがサイト設計の設計図になります。
  2. 取引先を2〜3ランクに分ける。標準・優良など、掛け率の段階をざっくり決めます。細かくしすぎず、まず運用できる粒度で。
  3. 新規と既存の支払い条件を決める。「新規は前払いから、実績を見て与信枠を設定」など、回収リスクを抑える初期ルールを1本決めます。
  4. 見積もり・問い合わせの受け皿を用意する。まずはフォーム1つでも構いません。「カートで即注文」と「相談して注文」の2本立てを意識します。
  5. 最低ロット・入り数を商品ごとに整理する。「1ケース○個入り」「最低○円から」を一覧にして、サイトで明示できる状態にします。
  6. 小さく始める範囲を決める。全取引先を一度に移行しようとせず、協力してくれる数社から試すと、つまずきを早く見つけられます。

BtoB EC 立ち上げチェックリスト

手作業から解放された卸の担当者が、取引先と電話で笑顔で話しながら、これからの取引の広がりに前向きな表情を見せている情景

BtoB ECは、派手な集客テクニックよりも「今ある取引を、いかにていねいにネットへ写すか」が出発点です。会員価格・掛け売り・見積もり・最低ロット——この4つの背骨さえ決めれば、あとは小さく試しながら育てていけます。まずは取引の棚おろしを1枚作るところから。手作業に追われていた時間が、少しずつ「次の一手を考える時間」に変わっていきます。あなたのお店の取引が、もっとなめらかに回り出しますように。

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参考(公式・一次情報)